様々な話題への疑問など

世の中の話題に対して、できるだけ斜めに捉えてみます

再エネの変動

再エネはお天気次第で変動するので、バックアップが必要と言われている。

一方、IEAが作成した再エネの系統連系に関するファクトシートにおいて、集合化させることで変動が平滑化されると評価されている(下記ファクトシートNo.1参照)。

www.nedo.go.jp

 

日本において、実際どの程度平滑化されるのか、2020年度の1時間単位の発電量についてグラフ化してみた。対象は所謂10電力(北海道電力東北電力北陸電力東京電力中部電力関西電力中国電力四国電力九州電力沖縄電力)とし、各社の需給実績データを元に作成している。赤を太陽光、青を風力、緑を再エネ(太陽光+風力)としており、変動に多少の地域性も見られるが、一番興味深い点は全電力合計の再エネはゼロになっていない部分がある点だ。尚、発送電分離されたものの、便宜的に従来の10電力表記としている。

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全電力合計の太陽光、風力、再エネ(太陽光+風力)をそれぞれヒストグラムにしてみると、太陽光は一番小さい階級に集中しているのに対し、風力は少し右にシフトしている。風力はワイブル分布になると言われているが、正にその通りの結果となった。太陽光は年間の約37%の時間帯が0kWhとなっていたが、風力が0kWhとなる時間帯は無かった。日本全体が夜になることはあっても、日本全体に風が吹かないことは無いということか。

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ここで、念のため各社・電源の変動係数も記載する。太陽光は風力よりも変動係数が多いが、再エネとしての合計も、電源別の合計も、いずれも変動係数は小さくなっている。集合化させると変動が平滑化される、ということだろう。

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 以上より、再エネに対するバックアップの議論において、ポテンシャルとしては必ずしも全量についてバックアップする必要はない。全国規模で送電網の整備を行えれば、再エネ発電量がゼロにはならないからである。再エネは整備が進めばベース電源の一部を担えるポテンシャルがあるが、再エネ自体のコスト低下具合や、送電網の整備コストの課題もあるので、どこまで実現できるかは今後に期待ということで。

九州電力管内の再エネ抑制状況

2021/6/6の記事で2020/4/1~2021/3/31の九州電力管内の再エネ抑制状況を調べたので、他の電源も含めたデータをご紹介。

 

太陽光の発電実績(SOLAR_RESULTS)、抑制量(SOLAR_REGULATED)、両者を足し合わせた本来の発電量(SOLER_TOTAL)を示す。尚、それぞれ1日の合計値(MWh)としてプロットしており、風力も同様。

 

太陽光は春から夏にかけて発電量が多く、風力は冬から春にかけて発電量が多い。その結果、双方で春に出力抑制が多い状況が分かる。 

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全体との比較も必要なので、電力需要(DEMAND)、火力(THERMAL)、原子力(NUCLEAR)、水力(HYDRO)、地熱(GEOTHERMAL)、バイオマス(BIOMASS)、太陽光(SOLAR)、風力(WIND)、揚水(PUMPING-UP)、連系線(INTERCONNECTION)についてプロットした。揚水や連系線がマイナスになっているが、揚水分はその名の通り水を組み上げて発電を吸収しており、連系線分は中国電力へ送っていることになる。

 

原子力は、何基が起動しているのか分かり易い。電力需要と火力のグラフが似ているということは、基本的には火力で調整しているということだろう。

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各項目の相関係数を可視化したものが以下となる。太陽光と火力が、比較的高い負の相関になっていることからも、太陽光の変動を火力でカバーしていることが分かる。水力と地熱も比較的高い負の相関になっている点が興味深い。

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念のため、各項目の変動係数を算出すると、以下となった。地熱やバイオマスの変動係数は小さく、非常に安定した電源であると言える。

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以上より、結果的に太陽光を活かすために、火力が支えている状況になっている点が皮肉だ。相関の低い風力を増やし、再エネとしての変動を少しでも減らしていく必要があるだろう。また、脱・脱ダム宣言により揚水も増やしていく必要がある。

再エネ出力抑制分をEVなどで吸収できるのか?

九州電力管内では再エネの出力抑制がしばしば話題に挙がっている。再エネ業者への嫌がらせだという声、再エネは不安定で使い物にならないという声、様々な意見が挙がっているが、電力需給において実際にどの程度の規模感になるのか調べてみた。ソースは以下となる。


九州電力送配電 系統情報の公開>

https://www.kyuden.co.jp/td_service_wheeling_rule-document_disclosure

 

1時間間隔で、エリア需要、原子力、火力、水力、地熱、バイオマス、太陽光(実績)、太陽光(抑制量)、風力(実績)、風力(抑制量)、揚水等、連系線、の項目がMWh単位でデータ化されており、今回は2020年4月~2021年3月の1年間を調査した。

 

太陽光と風力の抑制量、そして双方の合計値をヒストグラムにした結果が以下である。

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再エネなので発電量がゼロとなる時間帯も多く、結果として抑制量もゼロになることが多かったため、グラフが偏りすぎてしまった。

そこで、ゼロを除外して再度ヒストグラムにした結果を以下に示す。

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そもそも設備容量が太陽光に偏っているため、風力は殆ど誤差レベルになっているが、再エネの出力抑制の最大値は2021/3/27 12:00の2,969[MWh]となった。

 

 

では、再エネ出力抑制電力を九州のEVやハイブリッド車で受け取れるのか?

 

国土交通省 九州運輸局の掲載されているデータによれば、ハイブリッド車が113万台、EVが1.7万台となっている。

ハイブリッド車のバッテリー容量としては、通常のハイブリッド車では1kWh程度、プラグインハイブリッド車ではプリウスの場合は8.8kWhであるが、現状はプラグインハイブリッド車の普及率は圧倒的に低いため、ほぼ通常のハイブリッド車であると仮定する。

EVのバッテリー容量としては、最新のリーフでは62kWhであるが、初期型のリーフが24kWhであることも勘案し、現状の平均は20kWhであると仮定する。

そうなると、九州地区のEV・ハイブリッド車で受け取れる容量は約1,500MWhとなり、仮に全車が空であったとしても再エネ出力抑制の半分しか満たせない。

 

国土交通省 九州運輸局 燃料別等自動車保有台数>

https://wwwtb.mlit.go.jp/kyushu/toukei/nenryoubetsu.htm

 

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では、将来的にはEVやハイブリッド車で受け取れるのか?

 

九州地区の全車両は約950万台であるが、一般的に予想されているように2030年時点で従来型の車が50%、EVが25%、ハイブリッド車が25%という比率になっていると仮定する。そうすると、ハイブリッド車もEVもそれぞれ237.5万台となり、確保できる容量は約50,000MWhとなる。

 

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この場合、容量の6%(約3,000MWh)を提供してもらえれば再エネの出力抑制は不要になる。

 

自動車の稼働率は数%程度であり、殆どの自動車が駐車されているため、駐車場への電力系統を整備すれば解決できない話ではない。また、リチウムイオン電池の場合、フル充電は劣化が進んでしまうため、例えば設定値として90%に制限しておけば受け入れられない数値ではない。

 

 

再エネに蓄電池を併設する話はよく聞くが、新たに設備投資するにしても莫大な金額となるため、既存設備であり追加投資が殆ど不要となる自動車を活用する方法がリーズナブルな解決策となるかもしれない。

 

自動車のエネルギー消費量から電力量換算したら?

 3/29の記事で評価した通り、自動車走行距離から電力量換算してみたところ、年間230TWhとなった。念のため、エネルギー白書2020年版の、運輸部門のエネルギー消費の動向からも算出してみる。

 

 以下に示す通り、エネルギー消費は合計2,693PJとなり、電力量換算すると748TWhという結果になった。3倍もの差が生じてしまったが、市街地では渋滞による低速や、信号停止状態が多いためだろうか。

 

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オールEVにした場合の電力消費増加量の試算

 2021年1月、政府は2035年までに内燃機関車の新車販売を禁止する方針となり、電気自動車(EV)、ハイブリッド車(HV、PHV)、燃料電池車(FCV)しか購入できなくなる。個人的には、石原都知事時代のディーゼル車規制以来の大胆な方針に感じるが。トヨタの豊田社長は、原発なら10基、火力なら20基ほど追加で必要になると述べていたが、実際にどの程度必要になるのか試算してみることとする。尚、計算の簡略化のため、全てEV化される前提とする。

 

走行距離
 国交省が公表している自動車燃料消費量統計年報(令和元年度分)によれば燃料別の年間走行距離が分かり、ガソリン車が約6,191億km、軽油車が約1,889億km、LPG車が約65億km、CNG車が約1.4億km、とのことである。

 

燃費
 EVとしては、日産リーフの燃費は7~8km/kWhとなっているが、日本公正取引協議会が設定しているEVの燃費は6km/kWhであるため、今回はこの値を用いる。尚、軽油車は主にトラックなどの大型車であると考えられるため、エイヤで乗用車の4分の1となる1.5km/kWhと仮定した。

 

必要電力
 以上を基に、必要電力を算出すると、年間230TWh必要という試算になった(表1参照)。所謂原発1基分と言われる設備容量100万kWで計算すると、設備利用率70%の場合、年間発電量は6.1TWhとなるため、230TWhに対しては38基必要ということになる。

 2035年時点で燃費が現在の倍になっていると仮定すると、原発は半分の19基必要となり、EV以外の車もある点、人口減少により自動車台数も減少する点なども考慮すると、原発10基という豊田社長の発言は確からしい数値であると考えられる。 

表1 EV化に伴う必要電力

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おわりに
 日本の年間発電量は約1,000TWhであるため、230TWhという数値は2割増しという規模感である。原発や火力で賄うのか、再エネが本当に主力電源化されるのか、いずれにせよ電化という需要は省エネでは賄えなさそうだ。

表2 原発と日本の発電量の比較
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「柏崎刈羽原子力発電所におけるIDカード不正使用」事象に対する原子力規制委員会の責任

 今年2021年1月、マスコミ報道により、東京電力ホールディングス(以下、東電HD)柏崎刈羽原子力発電所にてIDカードの不正利用が公になった。本事象が発生したのは昨年9月であり、当初は何故数か月間も公表されていなかったのかという声もあったが、原子力規制庁から原子力規制委員会への報告が遅れていたことが原因とのことである。原子力規制委員会のサイト情報を基に、時系列を表1にまとめた。

 

表1 主要時系列 
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  原子力規制委員会やら原子力規制庁やら、似た名前だが何が違うのかと思われる方のために、念のため組織図を示しておく。簡単に言うと、5名の委員で構成される原子力規制委員会(以下、委員会)の下に、事務局として原子力規制庁(以下、規制庁)が設置されているということになる(図1参照)。

  

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図1 組織図(出所:原子力規制委員会ホームページ)

 

  東電HDがIDカードを不正利用したことに対する問題点については、既に多くの方が指摘されているため、ここでは割愛させていただく。一方、規制庁からの報告遅れについては、委員会・更田委員長も記者会見で

 

「率直に言えば、これはちょっとすぐに聞かせてもらってよかったなというふうに、私自身は思いましたし、昨日の委員会の中でも、1 名の委員から、こういった事案については速やかに報告をしてほしいという意見がありました。」原子力規制委員会 記者会見速記録より)

 

と述べている通り、委員会としては、規制庁の判断が納得できなかったようである。規制庁は第1区分に該当する案件であるためか、

 

「四半期ごとの報告の中で伝えればいいだろうというふうに判断をしていた」(原子力規制委員会 記者会見速記録より)

 

とのことである。

 

 ここで疑問に感じるのは、組織として報告ルールが機能していたのか、という点である。「第55回原子力規制委員会 臨時会議」資料によれば、規制庁は東電HDに対し、当初は第1区分と通知していたものの、年明け1月の一連の騒ぎにより第2区分へ見直したことになっている(表2参照)。そうなると、対応区分による分類の考え方について、委員会と規制庁に認識の祖語があったことになる。ルールは一応作ったが、実運用レベルまでは真面目に考えていなかった、ということだろうか。

 

表2 対応区分(出所:「第55回原子力規制委員会 臨時会議」資料)
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原子力規制検査を運用してから、こういった事例というのは初めて、こういったレベルの事例というのは初めてですので、今回の事案から、原子力規制委員会、規制庁としても学ばなければならないことがあるだろうと思っています。」(原子力規制委員会 記者会見速記録より)

 

「ルール化するとか、ある線を引いて一定以上の事案についてというようなことは、セキュリティ事案ではかなり難しいだろうと思っています。ですから、一つ一つのケースにおいて判断していくしかないだろうというふうに思います。」(原子力規制委員会 記者会見速記録より)

 

 以上からも、規制庁への不満と、東電HDに対する厳しい言葉はあるが、委員会としては「今回の事案から学びます」ということのみである。年度評価となるマネジメントレビューにおいても本件は登場しているが、当該項目の「施策の達成状況の評価」は「A」評価となっている(表3・表4参照)。

 

表3 評価区分(出所:原子力規制委員会マネジメントレビューを基に筆者作成)
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表4 令和2年度重点計画の達成状況の評価及び次年度の取組の方向性(抜粋)
(出所:原子力規制委員会マネジメントレビューを基に筆者作成)
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 何故、委員会と規制庁の判断に差が生じてしまったのか、について深掘りすることもなく、このままシャンシャンと終わってしまって良いのだろうか。規制庁の判断が間違っていたのならば、委員会としての管理不備、という観点で語るべき内容ではないか。核セキュリティに関わる内容なので公表できない内容が多いと言うが、ガバナンスが不足しているとしか考えられない。一般的な会社であれば、取締役としての責任問題としても扱われる事案である。


 平時の小さな(!?)事案でさえ、このようなことが起きてしまうので、万が一福島事故のようなことが起きた際に、関係機関と認識の齟齬を生じさせない/減らすための機会として捉えてもらいたい。原子力の安全文化とは、そういう精神であると考える。