「柏崎刈羽原子力発電所におけるIDカード不正使用」事象に対する原子力規制委員会の責任
今年2021年1月、マスコミ報道により、東京電力ホールディングス(以下、東電HD)柏崎刈羽原子力発電所にてIDカードの不正利用が公になった。本事象が発生したのは昨年9月であり、当初は何故数か月間も公表されていなかったのかという声もあったが、原子力規制庁から原子力規制委員会への報告が遅れていたことが原因とのことである。原子力規制委員会のサイト情報を基に、時系列を表1にまとめた。
原子力規制委員会やら原子力規制庁やら、似た名前だが何が違うのかと思われる方のために、念のため組織図を示しておく。簡単に言うと、5名の委員で構成される原子力規制委員会(以下、委員会)の下に、事務局として原子力規制庁(以下、規制庁)が設置されているということになる(図1参照)。
東電HDがIDカードを不正利用したことに対する問題点については、既に多くの方が指摘されているため、ここでは割愛させていただく。一方、規制庁からの報告遅れについては、委員会・更田委員長も記者会見で
「率直に言えば、これはちょっとすぐに聞かせてもらってよかったなというふうに、私自身は思いましたし、昨日の委員会の中でも、1 名の委員から、こういった事案については速やかに報告をしてほしいという意見がありました。」(原子力規制委員会 記者会見速記録より)
と述べている通り、委員会としては、規制庁の判断が納得できなかったようである。規制庁は第1区分に該当する案件であるためか、
「四半期ごとの報告の中で伝えればいいだろうというふうに判断をしていた」(原子力規制委員会 記者会見速記録より)
とのことである。
ここで疑問に感じるのは、組織として報告ルールが機能していたのか、という点である。「第55回原子力規制委員会 臨時会議」資料によれば、規制庁は東電HDに対し、当初は第1区分と通知していたものの、年明け1月の一連の騒ぎにより第2区分へ見直したことになっている(表2参照)。そうなると、対応区分による分類の考え方について、委員会と規制庁に認識の祖語があったことになる。ルールは一応作ったが、実運用レベルまでは真面目に考えていなかった、ということだろうか。
「原子力規制検査を運用してから、こういった事例というのは初めて、こういったレベルの事例というのは初めてですので、今回の事案から、原子力規制委員会、規制庁としても学ばなければならないことがあるだろうと思っています。」(原子力規制委員会 記者会見速記録より)
「ルール化するとか、ある線を引いて一定以上の事案についてというようなことは、セキュリティ事案ではかなり難しいだろうと思っています。ですから、一つ一つのケースにおいて判断していくしかないだろうというふうに思います。」(原子力規制委員会 記者会見速記録より)
以上からも、規制庁への不満と、東電HDに対する厳しい言葉はあるが、委員会としては「今回の事案から学びます」ということのみである。年度評価となるマネジメントレビューにおいても本件は登場しているが、当該項目の「施策の達成状況の評価」は「A」評価となっている(表3・表4参照)。
何故、委員会と規制庁の判断に差が生じてしまったのか、について深掘りすることもなく、このままシャンシャンと終わってしまって良いのだろうか。規制庁の判断が間違っていたのならば、委員会としての管理不備、という観点で語るべき内容ではないか。核セキュリティに関わる内容なので公表できない内容が多いと言うが、ガバナンスが不足しているとしか考えられない。一般的な会社であれば、取締役としての責任問題としても扱われる事案である。
平時の小さな(!?)事案でさえ、このようなことが起きてしまうので、万が一福島事故のようなことが起きた際に、関係機関と認識の齟齬を生じさせない/減らすための機会として捉えてもらいたい。原子力の安全文化とは、そういう精神であると考える。